自作ボート・Spindrift 10n 製作記

スイスの湖に自作ボートを浮かべるまでの記録

ガンネルの取り付け

(同日に投稿していますが、これまでの数ヶ月分を纏めて書いているためです。)

 

この船は真ん中で分解できる "Nested dinghy" 仕様です。(英語でプランを探すときは、Nested dinghy, sailing dinghy などのキーワードが有効)単に真ん中で切断すると、前後それぞれの船体が反りを戻そうとし、均等なカーブが崩れてしまいます。これを防ぐため、船体の縁にぐるりと取り回すガンネルは3重の木材を用いて接着する必要があります。私は英国のFyne boat から製材されたサペリを購入しました。地元で買えないのが痛いところ。

また、ガンネルを取り付ける前に、船首の角を補強する「ブレストフック」をマホガニーから切り出しました。このマホガニーはフィジーで植林されたという本物マホガニーです。

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ボール紙に船首を写し取り、更にマホガニーに転写

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エポキシで接着、そのあとにブロンズのビスで補強

ちなみに、その後ブロンズの 5cm もあるビスで補強しました。エポキシ工法(WEST工法)で金物を使うかは賛否あると思います。ただ、この場所のように木材(特に合板)の端を接着する場合、私はビスかボルトが必要だと思います。実際に合板の端に木片を接着して破壊してみたところ、接着面は大丈夫でしたが合板の表面の層が持って行かれました。そうすると合板は6mmでも5センチでも破壊強度は一緒になってしまいます。これを防ぐためには、合板全体を貫通させるビス留めが有効でしょう。もちろんビス穴は予め下穴を開け、エポキシを流し込んで防水します。

 

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ガンネルのサペリ材をスカーフジョイント

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長くスカーフジョイントしたガンネル材

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ガンネル接着、1層目

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3層目をドライフィット、ビスの場所と船体中心の確認

 

合板のステッチ

合板を切り出し、長辺は足りないのでスカーフジョイントしました。

スカーフジョイントは失敗したので写真は載せません笑。今からやり直すなら、合板を重ねて真ん中を2x4材にでもビス留めします。合板が横方向に微妙に波打っていて、真っ直ぐにスカーフを切れませんでした。それから、最初は機械で楽をしてもいいですが、手カンナが意外と手っ取り早いです。20分も削れば形になると思います。

ともあれ、まずはキールラインをスティッチ。本を開く形になるので、内側(合板がぶつかり合う側)の角を鉋で落としておきます。スティッチは緩めにしておかないとパネルが開きません。私の場合は緩めでも開かず、バルクヘッド(隔壁)にワイヤーを通して船底を貫通させ、棒を入れて捻って無理やり引き寄せました。最初に1.3mmの銅線を使ったところ、強度が足りずに全て切れてしまい、3重に束ねた銅線でなんとか形にしました。

 

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キールラインをスティッチ。6mm合板はなかなか曲がらない

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中央のバルクヘッドをスティッチ。実はここまでパネルを開くのに2晩かかった

更に、船首部分(ステム)は本当に大きな力でステッチしなければならず、最終的には鉄線を用いてステッチしました。ここも単にワイヤーを捻るだけではワイヤーが疲労で切れてしまうので、棒(私はドライバーの変えビット、長さ20cmほどを使用)をワイヤーに絡ませ、強く引っ張りながら捻る必要がありました。また一部を締め付けすぎず、均等に締めていくことが大切です。

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ステム部分。ここは鉄線でスティッチ

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なんとか形になってきた

なんとか形になりましたが、この段階ではまだ全体がやわで捻じれます。継ぎ目を全てエポキシでフィレットし、ガンネルを取り付けるまでは、下手に触ると捻じれた船になってしまいます。

合板と木材のカット(マキタ hs301dz)

ジグソーとカーボン紙は鬼門

設計図を買った際、数メートルのロール紙に印刷された原寸大のパターンをオプション購入しました。最初はこれをカーボン紙で写し取り、ジグソーで切り抜いたのですが、これは失敗でした。

賃貸でDIYを始める時、最大の問題は騒音でしょう。私のジグソーは、買って電源を入れた途端にこれはまずいと直感する大音量です。Boschの安いモデルを買ったので変速機能が無いのも悪いのですが。

更にジグソーの利点の裏返しで、曲線が左右にブレ易く、ボートには不可欠の滑らかな曲線カットが難しいです。少し大きめにカットして鉋で削り込む方針にしました(このカットは後に丸ノコで切りなおすことに)付け加えると、カーボン紙の転写は線幅が広くなりやすく、また線をなぞるのも真上をトレースするのが難しいです。

 

丸ノコと画鋲+定規で綺麗なカットに

ジグソーの騒音に耐えかね(合計20分程度しか使っていませんが)たまらず丸ノコを購入。「マキタ hs301dz」、一番小さい85mm径のモデル、電圧12V(日本国内だと10.8V)で回転が1500 rpm の軽作業用です。この丸ノコ、レビューでは刃の回転が遅いのが低評価で、また小径ゆえに非力で直線が安定しないなど微妙です。しかし、これらの特徴が私の用途には大当たりでした。まず小型で低速ゆえにうるさくない。夜でなければぎりぎり室内で使えるレベルで、ジグソーに比べるとプリウスとハーレーくらいの差があります。また小径の刃は緩い曲線なら何とか切ることができ、その際にも低速非力ゆえにキックバックで指を落とす危険性が比較的少ないです。

 

www.makita.co.jp

 

まずは設計図を合板の上に置き、釘を数センチおきに線上に刺してマーキングします。次に各点を定規を使って直線で結びます。局所的に直線だろうと、大局的に見ると緩やかな曲線になるのがポイント。次に上記の小型丸ノコを使って、この緩やかな曲線に沿ってカット。丸ノコなので元から急激な曲線切りはできないのが幸いし、かなり滑らかな曲線でカットすることができます。(ただし丸ノコの曲線切りは本来危険な行為であり、これを推奨する意図はありません。本文は私が行った工作を記録するのが目的です。万一の怪我や事故の場合に当方は一切責任は取りません。)

ちなみに、この釘打ちをバテンという細長い棒でつなぐと、滑らかな曲線が書けます。釘の場所をパターンではなく座標で行う(基準線を書いて、縦に○m、横に○mに次の釘、というように)とロフテフィング(Lofting)という作業になり、これは本格的な外洋ヨットを作る場合にも基礎になる技術です。

 

自作に使うマリン合板、木材などの入手

 

マリン合板

購入した設計図にも、「使用する合板にはマリン合板を絶対に勧めます。あなたはこれからかなりの時間を制作に費やすことになる。同じ労力を注ぎ込むなら、孫子の代まで使え、また売却価値のある作品を作った方が良くはないか」とありました。

 

マリン合板とは、船舶の構造材用として供給される合板のことです。主な特徴として、耐水性(フェノール樹脂接着剤)、ヌケの無い芯材を使用した高い品質があります。しかしそのほかにも、接着剤に防腐剤を混合して耐久性を高め、また各層が均等な厚みなので曲げ耐性にも優れるとのことです。高い材料には理由があるのですね。

 

さて、日本ではマリン合板の入手が困難なようですが、それはスイスも同様です。スイス国内の通販では、8 feet の合板一枚が 250 フラン(25,000円程度)しかも規格は無名のイタリア海洋協会規格。これなら海外から輸入した方が安いので、今回はイギリスのFyneboats から個人輸入しました。 6 mm 厚で一枚5,000円程度、合計4枚購入。これに送料が合計2万円ほど。送料は合板以外にも金物なども含まれます。高いですが、そもそもこのボートは次の居住国にも持って行く気でいます。国際貨物の混合便で送料が10万超なことを考えれば、下手な材料で低級な舟を作っても割が合わないでしょう。そもそも材料を出し惜しみすると、将来気になり始めるのが目に見えています。

 

購入した合板は、BS 1088(British Standard 1088)というマリン合板の規格をクリアしています。BS 1088 はマリン合板の国際規格とも言え、高品位の接着剤による耐水性、耐熱性、耐腐食性(カビなど)、両面・芯材ともに無節で美しくヌケの無い材、さらに各層が均等に積層されていることなどが求められます。各層が均一でないと、縦横方向で強度が異なり、またスカーフジョイントによる接着強度にも影響が出るそうです。今回は 6 mm 厚の 8 feet を4枚購入しましたが、重くて大変でした。半一階に住んでいるので階段は半階分しかないのに、重くて持ち上がらず、結局玄関先で開梱して一枚ずつ自室まで運び入れました。重さだけならともかく、240 cm の大きさが問題でした。

 

各種木材

合板以外に問題なのが、ガンネルや各種補強材に使う材木です。なにしろ販売店はドイツ語なので、樹種を知るにも一苦労。Buche がビーチ(ブナ)、Fichte はスプルースなど。しかも、Fichte/Tanne (Herkunft: Schweiz) とあれば、スプルースでも北米産スプルースではなく、スイス国内産のスプルース、つまりドイツトウヒ、ヨーロピアホワイトウッド、ヨーロッパスプルースの類と思われます。Wikipedia によるとこれらは耐朽性が低く、どうもボートには向かなそうです。ビーチも船舶用途には不適。SPFホワイトウッドなら売っていますが、これらも水回りには不向きでしょう。

 

広いDIYの店を歩き回った結果、チロル杉という樹種の荒材を発見。アルプスのチロル地方で育った杉で、寒冷地なため木目が詰み、水にも強いとの表書きです。ほかに選択の余地も無く、これをトランサムの補強材にすることにしました。

 

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(追記)

更に一月後、このホームセンターを当てもなく2時間ほど歩き回っていると、建材コーナーにダグラスファーを発見しました。(なぜか丁寧に学名 Pseudotsuga が併記してあったのではっきり識別できた)先ほどの荒材は置いておいたら激しくねじれが生じ、使い物にならなくなってしまいました。その直後にスイスは2回目のロックダウンに突入。コロナウイルスを恨みつつ、木材を買えないがために作業できない日々を過ごしました。今回ダグラスファーの芯材(赤身)から切られた板が買えたので、こちらをトランサムの補強材にすることに。


ボートを作りたい

きっかけ

私は何かの縁でスイスの首都、ベルンに住んでいます。

 

スイスは海こそ無いものの、アルプスの氷河から流れ出た綺麗な湖と川に囲まれた水の国。特にベルンでは、上流の Thun から2~3時間かけてアーレ川を川下りする "Aareböötle" が夏の風物詩で、老若男女が水着で川遊びを楽しみます。普通はゴムボートで下るのですが、これを膨らませるのがなかなかの手間で、普通のボート欲しいなと思ったのがすべての始まりでした。

 

そもそも私は船が好きで、子供の頃は竹の筏を作ったり、角材とベニヤ板で船を作ろうとして頓挫したり、学生時代にはファルトボート買ってみたり、色々遊んできました。現在の身分は不安定で、いつ海外移住になるかわからない為に躊躇していたのですが、人生思い立った時に行動しないと結局何もできないですよね。今後仮に身分が安定しても、次はやれ子供ができた、部屋が狭い、など言い訳が先に立つのは目に見えています。そこで部屋がある程度のスペースがあり、半地階で裏庭にアクセスできる今、ボート作りを始めることにしました。

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宮城県荒雄川に浮かぶファルト。もう十年も昔のことなんて。。

 

欲しいボート

特にヨットにはこだわらず、動力船でも構わない。しかし法律が面倒なので結局手漕ぎか帆船になりそうです。見た目にかっこよく、クラシカルなのがいい。理想は clcboats の Chester Yawl あたり。後述のスペース問題がなければおそらくキット買って作っていたでしょう。

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https://www.clcboats.com/shop/boats/rowboats/chester-yawl-row-boat-kit.html より引用

 

スペースの問題

スイスに永住する予定は今の所ないので、いずれは国外に転居することになります。仮に日本に戻るとすると、ボートも国際輸送しなければならない。4 m 超のボート、ヨットをヨーロッパから国際輸送する方法、結局私は見つけられませんでした。仮に2分割できる船体なら、パレットに積み込んで船便扱いで15万円程度で日本輸送できます。高いですが、ここで躊躇していたら一生ボートなんて作れない。腹をくくりました。

 

登録、免許の問題

スイスでは8馬力まで(だったかな)帆船なら15 m^2 の帆までは免許不要。しかし船の登録は必要です。仮に船体が2.5 m 以下だと、ビーチデバイス(浮き輪的な遊具)扱いになって船舶登録は不要。しかし沖合100 m 以遠は不可など制約がかかります。よって免許不要サイズで帆船、二分割艇を作ることにしました。

 

次回、船の選択に続きます。

完全自作、または設計図を買う、または製作キット

本来の目的は、綺麗なボートを安く購入すること。特に自作にこだわる気持ちもなく、合理的な入手ができればそれで良い。けれども、完成艇を安く購入するのは難しいです。まず、分割できるディンギーの供給自体が少ない。あったとしても非常に高価です。無いなら作れば良いのですが、ここで選択肢が3つ出てきます。

 

1. 完全自作(設計から建造まで自力で行う)

2. 製作キットを買う

3. 設計図を購入し、木材の入手やカットは自分で行う

 

どうせ作るなら気持ちは完全自作。ですが私は流体力学の造詣が全くありません。勘に頼って流線型の青写真を引くのは可能ですが、素人が良い結果を出せるとは思えません。また素人設計は直線的になりやすく、いかにも素人工作な見た目になるのがちょっと…。自信もないので、完全自作は却下しました。

 

製作キットは当初の本命。いくつかの会社で、あらかじめカットされたマリン合板、エポキシ、ガラスクロスなどをまとめた自作キットが市販されています。おそらく最大手はアメリカの CLC boats で、大小様々なボート、ディンギーをキットにしています。

www.clcboats.com

 

デザインで特に惹かれたのは、最近追加されたライトハウス・ピーポッド。クラシカルなダブルエンダー、クリンカー風の外見で、とにかく見た目がいい。性能は知りませんが、見た目で一目惚れです。問題は 4 m のサイズ、80 kg 前後の重量。分割も改造しないと不可。

 

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より現実的なのは、こちらのイーストポート・プラム。特にネステッドバージョンは半分程度のサイズに収まります。コロンとした形が可愛く、見た目は完全に好み。問題は少し小さいことで、2.4 m だと3人乗りは少し難しそう。川での安定性も不安です。また浮力体がネステッドには無く(通常版は前後に空気室あり)そのあたりの改造も必要です。やっぱり小さすぎるのが不満。登録長 2.5 m 以下はスイス国内で船舶登録が不要で、その点は良いのですが。

 

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(from: https://www.clcboats.com/shop/boats/wooden-sailboat-kits/eastport-pram/eastport-pram-rowing-sailing-kit.html)

 

ちなみにCLCは英国のhttps://www.fyneboatkits.co.uk、ドイツのhttps://www.bergerboote.deが代理店になっています。特に Fyneboatkits は写真が豊富、また米国サイトにはないオプション等もあり魅力的です。私はFyneboatkits でマリン合板とハッチ、オールロックなどを、bergerboote で自作ボート用エポキシなどを購入しました。

 

米国の Bedard yacht design が出しているディンギー、Ozona X はサイズも3 m でちょうど良く、形も悪くない。ただ問題は、発売後間もないキットのため、どこを探しても製作記録が見つかりません。youtube で動画がありましたが、見つかったのは彼らの動画とインスタグラムの投稿のみ。ちょっと危険かと判断して、これはやめにしました。

 

www.bedardyachtdesign.com

 

 

ほかには、Small Craft Adviser の S.C.A.M.P. もかっこいい。キャビンは憧れです。けどこれを2分割にして日本に持って帰るのはどう考えても無理。

 

www.instagram.com

 

 

と言う訳でキットは全滅。必然的に選択肢3の設計図購入に至りました。

設計図から起こすとなると、残念ながらクリンカー風デザインは却下。カットが増えるため、精度が気になりますし、カットの手間も増えてしまいます。特にCLCのデザインは、縁をルーターで加工して Lapstitch をしなければなりません(これ自体は素晴らしいアイデアだと思います)。仕事の合間に作るので余分な時間はかけられない。あまりうるさいのも近所迷惑になります。自分で切るなら、V型か平底のシンプルな設計がいい。

 

色々悩んで決めたのは、アメリカ B and B yachts のディンギーSPINDRIFT DINGHY。ネステッドデザインもあり、現代的なV型ハルのためパネルのカットも容易でしょう。ボートの紹介文には、小型テンダーのレースで常勝だったとあり、設計は古いにせよ中身は確かかと思います。9-12 feet までありますが、今回は 10 ft (3 m) モデルを選択。原寸大設計図も購入しました。実はこのボートのキットもあり、本当はキットが欲しかったのですが、米国国外には輸出しないそうで、残念。下に引用した動画は少し小さい 9 ft バーションです。

 

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